2017-04-18 Tue
季節は空高く鯉のぼりが泳ぐ5月、その社員は、上司から仕事を頼まれた。頼まれたというよりは、自らすすんで引受けたわけだが、それは誰の目から見ても、決して易しい部類のタスクではなく、結構なスキルと時間が要るものと思われた。状況を説明しよう。
上司は、最近進んできた老眼のせいか、縁なしの眼鏡を額の辺りまで引き上げ、しかめっ面をしながら、1枚の紙片を覗き込んでいた。しばらく文字を目で追った後、ふう~、と溜息をつき、顔を上げて、こう言った。
う~ん、面倒だなあ。誰か、これ英語にしてくれないか?本部からの指示で英語版が必要なんだ。
この課に、英訳なんてできる気の利いたヤツはいない。一斉に皆が下を向き、上司と視線を合わせぬよう忙しい振りを装っていたが、そんな中、果敢にもひとりの男が立ち上がった。
あ、いいですよ。僕、今、手、空いてますから。
その新人君はフットワークよく、上司のデスクに走り寄り、1枚の書類を受け取った。
そうか、有難う。意外だなあ、君が。ただなあ、急ぎなんだよ、それ。明日の朝までに必要なんだ。まあ、時差があるから夕方までにFAXできれば間に合うんだが・・・。できるかい?
楽勝ですよ、そんなの。直ぐにできます、これくらい。
えっ?全員が耳を疑った。アイツにそんな特殊能力があったのか!皆が顔を見合わせ、オフィスがにわかにざわつく。
新人君は、濃紺のスーツの上着をヒラリと軽快に羽織り、ニッコリ笑って出て行った。ちょっと隣まで行ってきまあ~す、って言ったよな、確か・・・。
隣って何だ?何処に行くんだ?アイツ?隣のビルには・・・・。まあいいか・・・。
みんな、訝しく思ったが、自分のところに厄介な仕事が回ってこなくて良かったと胸をなでおろし、それぞれの業務に没頭するのだった。職場に平安な時間が戻ってきた。
それから10分くらいが経過しただろうか。
新人君は輝くような笑顔で戻ってきて、上司のところへ歩み寄った。
課長、コレできました!
ええ?そうか!でも・・・、やけに早いな・・・。
ん・・・。ん?ん???
課長の手元には、
A4からA5に縮小コピーされた1枚の紙片が置かれていた。
ではまた。
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