2019-09-20 Fri
このテキストは発売日の約1週間前に出版社から献本いただいておりましたので、現時点では、一般の読者の皆様より比較的じっくり読んで、聴く時間があったと思っています。つまり、今この時点では、僕はこの本について誰よりも詳しく知っている筈です。予想していた通りの力作ではありますが、良い意味で期待を裏切られた部分もあります。なに? そうきたかあ~! というところですね。それでは、詳しくレビューしてまいります。
先ず、このテキストの狙い、つまり、読者に期待することは、ずばり2つです。1つは「英語の音を身に付けてもらうこと」、もう1つは「英語の語順を身に付けてもらうこと」です。学習者がこのテキストを終えた時に、英語の音をストレスなく聞き取ることができ、更に、英語の語順のまま聞き取ることができるという状態を目指しています。
そして、この2つのスキルを身に付けるために著者が推奨するトレーニング方法は2つあって、それが、「穴あきディクテーション」であり、「キモチを込めた音読」です。この2つのトレーニング方法は、言わば車の両輪であって、相互に補完しあいながら、付け焼刃でない本物のリスニング力の養成を追求していきます。このトレーニング方法については後に詳述します。
次に紹介したいのは本書の構成です。個人的な感想を述べると、このテキストは上下巻に分かれていると考えたほうがよい。すなわち、Part1とPart2が上巻で「英語の音を身に付ける」セクション、Part3とPart4は下巻で「英語の語順を身に付ける」セクションです。
ある程度の実力者であれば1冊を通して学ぶほうが効率的ですが、まだ英語の音がよく聞こえていない学習者であれば、Part3以降に進むのは一旦待って、Part1とPart2を納得いくまで繰り返したほうが、一見回り道のようでも結果的には近道になるように思えます。
基本的な音が聞こえる状態になっていないのに、一気に英語の語順を身に付けようとするのは飛躍しすぎだからです。急がば回れ。先ずは、自分の頭の中にある音とナレーターが発する音のギャップを埋める「正しい音への上書き」作業が先です。このステップを飛ばしてしまうと必ず先に行って行き詰るから。
さて、内容に踏み込んでいきましょう。前半のPart1とPart2は、一貫して「正しい英語の音を身に付ける」トレーニングを実践していきます。そこで推奨しているのが「穴あきディクテーション」です。著者の豊富な指導経験から、日本人学習者が聞き取りにくい音に焦点を当て、学習者が間違えて記憶している音を矯正していきます。
英語の音を聞き取るというと、とんでもなく難しく感じるかもしれませんが、実際にはそうでもありません。著者曰く、聞こえた音が正しい音だと。自分が頭の中に持っている音、つまり、こう聞こえる筈だと思っている音と、実際にナレーターが話す音とのギャップを埋めていく作業であり、慣れてくると楽しい。
この際に威力を発揮するのが、著者の独自の表記を使った発音記号なのです。日本人にはどうしても馴染みにくいのが英語の発音記号でしょう。どの辞書を開いても必ず出てくる英語表記の発音記号に辟易した経験は誰でもお持ちでしょう。
その苦い経験を覆すツールこそ、著者が考案した「カタカナとアルファベットの合成語」です。何と、大胆不敵! しかし、これが腑に落ちるというか、とにかく分かりやすい。幾つか例を挙げると、「street⇒stリーt」「where⇒wエア」「have to⇒ハfタ」などです。カタカナ表記のストリート、ホエアー、ハブトゥとはまったく違いますね。
いずれは英語表記の発音記号に進んでいくにせよ、最初の取っ掛かりはこれでよいと僕も考えています。要は、間違えて記憶していた音を、正しい音に上書きすればいいわけです。英語固有の、音が連結する場合や音が消える場合の聞こえ方も、この合成語を活用して乗り越えることができます。
後半のPart3とPart4では、「キモチを込めた音読」を軸に「英語の語順を理解し、聞こえてきた情報をその語順通りに頭の中で処理する」トレーニング方法が示されています。語順というと、英文法の範疇かと思われがちですが、決してそれだけではありません。
著者の着眼点は英文法の枠を超える範囲にまで及んでいます。すなわち、英語の抑揚などに関する考察です。「上がり調子」で聞こえた場合のその先の展開の予測、逆に、「下り調子」で聞こえた場合のその先の展開の予測、あるいは「一瞬の間」が意味するものは何か? 是非、著者が展開していく興味深い英語の語順の世界を楽しんでいただきたいと思います。
実を言うと、僕も音読は得意ではありませんでしたが、本書に触れることで、改めて音読の効能を見直した次第です。音読は、単純に文字を読む作業ではなく、英語の語順のままで話者のキモチを伝えていくトレーニングなのですね。話者が内に秘めているメッセージを言葉という形・音にして発信する練習なのだと思えば、俄然楽しくなってきます。あなたも是非、取り組んでみてください。
本書は徐々に難易度が高くなる構成になっていますが、ダウンロード音声も3通りが用意されています。易しい順に紹介すると、低速スピード⇒ナチュラルスピード⇒高速スピードです。最終章のPart4では、あえて、多くの初中級者が苦手としているオーストラリア男性とイギリス女性のナレーターを採用していますので、ナチュラルスピードでも十分速く感じます。このPartを高速スピードで聞き取るのは990点満点取得者の僕でも結構大変です。是非、挑戦してみてください。
最後に、本書は、八島晶さんがTOEIC講師としての豊富な経験を存分に活かして上梓した渾身の力作です。もはやTOEIC学習者のバイブルとして定着している同氏の名著「TOEIC L&R TEST サラリーマン特急 新形式リスニング」で書き切れなかった情報がすべてここにあります。
この1冊のスクリプトを全部覚えてしまうくらい何度も繰り返し、リスニングの基礎と応用力を養ったならば、一旦、このテキストは卒業し、英語界の大いなる海原に出て、いろいろな素材を聞いてみることを強くお勧めします。
その時、きっと、あなたの英語の世界は、既に大きく変わっている筈だから。
ではでは。
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